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さとう社会問題研究所コラム

昨日のNHKスペシャル『ここまで来た!うつ病治療』は「うつの治療に脳科学の視点から取り組んでいる」という趣旨の番組でした。
私も初めてみる内容で、とても興味深かったので、今回、簡単なレポートにしてみます。

まず、「うつは心の病気ではなく脳の病気」ということです。日本では「うつ病」患者が100万人ほどいらっしゃるそうです。
巷では、未だに大きな誤解として、「心の問題=心の弱さ」という考えがあり、「心の弱さを責める」という誤った精神疾患の方や精神障害者の方へのアプローチもあり、私が社会問題と考えている「人の苦しみに対する無理解」や「相談に応じる側の無理解」の事例が昨年もありました。(クライアントからのご相談や、皮肉にも同じNHKの昨年11月の『クローズアップ現代』など)

次に、「うつ」の診断が安易に出され過ぎている恐れがあるという問題です。
アメリカでは3人に1人、抗うつ薬の効果が出ないという調査結果があるそうです。

日本でも、会社を休職したり、精神障害者福祉手帳などの理由として、「うつ病」が多用されています。
たしかに、職場での対人関係や過労などの強いストレスで、「うつ」になる方が多いのですが、一方で、抗うつ薬の処方により、重大な事態になってしまうという問題がありました。
番組の後半では、精神医学ではDSM(アメリカの診断基準)の基準にいくら当てはまるかで診断を付けてしまうという問診に対する日本の問診に対する反省にも触れていました。

また、「新型うつ」や「現代型うつ」など、「うつ」にかこつけて、社会的に十分な理解や説明のない「病名」が作ら れてしまっているという問題もあります。(新型うつは学術上、明確な定義もありません。
医学上は「非定型うつ」と呼ばれていて、私がご相談を受けた事例にもありました。

今回、紹介された「脳科学によるアプローチ」は主に3種類あります。

アメリカで前頭葉の血流の改善で「うつ」の症状が改善されるという研究結果があり、最新「うつ」治療装置の経頭蓋磁気刺激(TMS)が使われておりました。(かつて使われていた電気痙攣療法を改良した感じです)治療は毎日受けるとのことでしたが、磁気刺激による効果は、かなり早い段階から現れるらしく、患者自身がそれを実感できるとの事でした。放送された映像では、翌日にはシャワーを浴びてひげを剃ってきて、1週間で外を出歩き、1か月で別人のようになっていて、誤解を恐れず言うと、返って胡散臭く感じてしまったくらいです。その後は、1か月に1回程度の治療で良くなるそうです。

この治療では前頭葉のDLPFC(背外側前頭前野)を刺激して調整するそうです。「うつ」とは扁桃体(不安や恐怖、悲しみなどが生み出される場所)が暴走した状態で、DLPFCは意欲を司り、扁桃体の暴走を防ぐ働きがあるとのことです。うつの患者さんは、扁桃体が暴走しやすく、DLPFCは扁桃体の活動を抑えることのできるそうです。

放送後、クライアントのご依頼で調べてみたのですが、日本国内でも、この経頭蓋磁気刺激療法を行っている病院があるそうです(杏林病院など)。 このTMSは脳卒中の治療手段としても使われているとのことでした。

同じくアメリカですが、あらゆる治療で改善が無かった「うつ」の症状を改善するため、脳に電極を埋め込む「脳深部刺激」(DBS)という治療法も実施されているとのことでした。手術を受けた方によると、特に違和感もないそうで、「何年も苦しんでいたことを思うと、受けて良かった」という事でした。
この脳深部刺激では、25野という場所を刺激するそうです。この25野はDLPFCと扁桃体のハブに当たる場所で、DBSでは25野を刺激してDLPFCと扁桃体の双方に働きかけるとのことでした。

日本では、「光トポグラフィー」という精神疾患の診断方法が研究されているらしいです。「うつ」と「統合失調症」、「双極性障害」でもパターンに差があるとの事。先述しましたが、「うつ」と「双極性障害」の診断間違いも重大な事態に至ることがあります。「うつ」の4割が双極性障害という調査結果もあるそうです。そう状態が極端に短く、診断の場で症状が現れないと「うつ」と誤診される場合があり、抗うつ薬が処方され、抗うつ薬を服用した状態で「そう状態」になってしまうと、極めて衝動的で危険な行動をとってしまう事例があるそうです。今回の映像では、女性が「歩道橋から飛び降りたくなった」と言っていました。厚生労働省は、SSRIの安易な処方はしないように注意喚起をしています。(平成21年5月8日指示)当研究所でも、精神科医のいい加減な診断で被害が大きくなったという相談を受けたこともありました。

DLPFCは従来からある認知行動療法でも整えることができるそうです。認知行動療法では、クライアントに違う考え方や見方を示すことで、物事の捉え方を前向きにすることを目的としております。(当研究所の心理コンサルティングでも、この認知行動療法の手法も用いております)具体的な失敗の少なさなどを示し、前向きに考えられるよう促すことで症状を改善することができます。映像では、失敗の数を全体の仕事量で割った結果を示し、「99%はできているのだから気にする必要なはい」という指摘をしておりました。(私の心理コンサルティングでも、この手の手法は多用します。ただ、学習性無力感に苦しむ方に「安易な前向きの押し付け」は返って危険です。「苦しみに対する無理解」になる恐れもあるからです。)


参照記事
独立行政法人・医薬品医療機器総合機構
使用上の注意改訂情報(平成21年5月8日指示分)


2012年2月13日 著作物です。無断転用は禁止します。 さとうかずや(さとう社会問題研究所)


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