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さとう社会問題研究所コラム

先日、NHKで「新型うつ」についての特集を見ました。
放送は2012年4月29日、再放送は5月9日でした。

NHKスペシャル「職場を襲う新型うつ」という番組で、 「企業が新型うつに苦しんでいる」ということでした。

昨年のクローズアップ現代で取り上げられた「現代型うつ」と同じで、 偏見を助長するだけという感想でした。
ちなみに、NHKでは、「新型うつ」と「現代型うつ」は同じもののようです。

ナレーションによると、新型うつとは、明らかな原因は不明で、 海外旅行には行けるが仕事には行けず、再発を繰り返すとのことです。

従来のうつとは異なるところがあり、「甘え」や「怠け」という誤解を生んでいるのですが、 精神科医によると、新型うつにも、うつの症状はあり、気分の波があるそうです。
ただ、抗うつ薬が効きにくいという特徴もあるとのことです。
他罰的な性向など、自己中心的で不真面目にも見えるが、症状は「うつ」ということです。
メンタルヘルスのテキストでも、新型うつは、従来のうつとは異なり、 下手に休職させない方が良いとも言われています。
私は、これまで何度か触れておりますが、個人的には、「社会性のアイデンティティ障害」と考えています。
番組では、「現代型うつ」と同様に、「企業が新型うつの被害者」という位置づけという印象でした。

ある鉄鋼企業は、「若手の育て直し」を行っていて、休職中の社員の家庭を訪問し、私生活の指導を行う。
あるIT企業では、「心の弱さに原因がある」と考え、自衛隊での研修で鍛え直しているそうです。
就業規則に「病気休暇中は治療に専念」とも定めているそうです。

あらかじめ書いておきますが、 うつを始め、多くの精神疾患・精神障害・発達障害などの原因として、 未だに、「心の弱さ」とか「親の愛情不足」という考えがあるようです。
「育て直し」という言葉から、「患者さんの心得の悪さ」という印象が見えてきます。
昨年も、クライアントが、親族の方から、うつについて叱責を受けたと仰っていました。
先日、大阪維新の会が提出した条例案でも、 「発達障害の原因は、幼少期の親の愛情不足」という内容があったそうです。
まったくの間違いで、脳の機能障害などが原因というのが、 医学的な見解になります。

それと、IT企業での「うつ」の原因についてですが、 IT企業は、労働環境が劣悪なところが多い産業でもあるとされております。
「過労うつ」や「過労自殺」などの「過労死」も日本は公然と放置されている状態です。
ですので、自衛隊で鍛え直す前に、 過労死の温床である「月80時間以上の超過勤務」など、 従業員の労働環境の改善を図った方が良いというのが、私の見解です。
そのため、労働基本法36条の改正が、法政策としては有効だと考えます。

新型うつについて、精神科医は適応の問題と考えているようです。
教育者の尾木直樹さんは、90年代からの「新学力観」の問題と考えているそうです。
「他者との比較」による「自己肯定観の欠如」という指摘は私も同感でした。
教育制度は社会が作ったもの、企業もそれを必要とした結果なのですから、 それに不都合があったのであれば、企業を含めた社会全体で負うものです。

ところが、NHKでは、あくまで「企業が被害者」という考えで、 「新型うつは、原因が外ではなく、本人の考え方に依ることが多い」と述べております。

「人生でのつまづきが原因」とあげ、患者さんの心の弱さや考え方が悪いとのことです。
新型うつの原因を家庭環境にあると考えている企業もあるらしいです。
番組では、新型うつだった若い女性の「悔い改めた」話がありました。

ここで、大きな疑問としてあげられるのは、 新型うつの特徴として、「他罰的な性向」ということをあげ、それを、「考え方の問題」としている点です。
従来のうつでは、「自罰的な性向」が原因の一つとされているのですが、 それも「考え方の問題」に集約できますが、これは明らかに不適切な考え方です。

そもそも、「心を守るために他人を責める」というのは通常の心的防衛規制です。
それを安易に「他罰的」と断罪することが、治療だと思われかねません。
「他罰的」「考え方が悪い」「認知がゆがんでいる」など、相手の性格を指摘することで、 相手を裁くと言うことは、通常なら、「人格への非難」と考えられております。
相手を抑圧することで問題の解決と考えるのは、極めて傲慢と言わざるを得ません。

「新型うつ」に対しては、それが許されるという考えは、重大な偏見を元にした見解と考えます。
そもそも、新型うつの気分の波が、従来のうつと同様のものであれば、 それは、「死に至るほどのもの」です。
患者を責めることは、極めて危険な行為であると考える必要があります。

また、企業が「従業員や家庭に問題がある」という考えを持っていることは、 「他罰的な考え」ではないかということです。
社会のシステムを作る際には、必ずと言って良いほど、企業は政治に口を挟んでおります。
その結果が、現在の問題なのであれば、 それは、「社会全体」であり、「従業員、家庭、企業」の問題として受け止めることが、 最低限のことだと考えます。

私は、新型うつの他罰的な性向は、企業や社会の姿勢の単なる裏返しのように思えてなりません。
前提に、「権力の正当性」でもあるのかも知れませんが、 企業には、自らを批判的に捉える視点が欠如していると考えることも出来ます。
それは、経営学で「組織防衛」と呼ばれる「モラル・ハザード」の影響かも知れません。

企業が、「新型うつの被害者は自らで、加害者は従業員とその家庭にある」というとき、 自らへの自己批判を怠っていないか、疑問に思います。
もし、「改善」という言葉を世界に広げた企業も同じ考え方でしたら、世の笑いものです。
人様には改善改善と、壊れたレコードのように良いながら、自分たちは、それをしていないのですから。

番組では、ドラマで、新型うつを説明していて、 臨床心理士が「現代型うつ」を指摘し、「患者さんの精神的な幼さが原因」、 「思いこみにとらわれると全体が見えなくなる」「誰が悪いわけでもない」、 「コミュニケーション能力の欠如」と、患者さんに向けて発言していました。
私も、従来のうつとは異なる症状を持つ方のご相談に応じておりますが、 その方は、専門家や行政の担当者から、心ないことを言われ、何度も自殺を図っています。
演出かも知れませんが、このドラマでは、新型うつだけでなく、 臨床心理士の認知行動療法が、「患者を批判し、責め立てること」という誤解を世に広めてしまいます。

原因探しは従来のうつでもしないのが一般的な精神医学の考え方です。
そもそも、新型うつの原因も、はっきり分かっていないのに、患者が原因と言い切れるのか?
原因を企業と患者の相互のコミュニケーションギャップに集約するなら、 患者の責任にも集約するべきでもないはずです。

ドラマは丸く収めていましたが、企業を「不心得うつの被害者」とする姿勢のNHK。
新型うつや現代型うつを理由に、過労自殺や過労うつも同じ扱いにされないか、心配になります。
「過労による問題の原因は、従業員の心がけの悪さです」などと言い出す心配です。

出演している方の発言でも、 「新型うつの若者を受け入れすぎるのも良くない。 そうでない者に負荷がかかり、社会や経営が弱くなっている」とありました。

社会や経営が弱る原因なら、 過労自殺や、過労うつ、安易なリストラも同じのはずです。
企業の安易なリストラが、失業者を増やし、生活保護受給を増やしています。
受け入れる雇用がないのですから、お金がなければ、生活保護受給しかありません。

過労自殺や過労うつで、企業は大きな損失を抱えているかも知れませんが、 それは、苦しんでいる患者さんやご家族、ご遺族も同じです。
新型うつの患者さんを社会で受け入れないのなら、 どうやって、公然と排除するのか。
複雑で重大な問題を、患者さんの責任にして解決しようという考えは極めて安易と考えます。

新型うつの被害者は、企業や社会でもありますが、 まずは、病気で苦しんでいる上に、誤解や偏見にさらされている患者さんご本人なのです。


2012年5月12日 著作物です。無断転用は禁止します。 さとうかずや(さとう社会問題研究所)


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