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さとう社会問題研究所コラム

平成25年1月1日から施行された家事事件手続法で、子どもさんを連れ去られ、引き離しにあっている被害者(別居親)の方が「第五款 家事審判の手続における子の意思の把握等」  についての 第65条で、「家庭裁判所は、親子、親権又は未成年後見に関する家事審判その他未成年者である子(未成年被後見人を含む。以下この条において同じ。)がその結果により影響を受ける家事審判の手続においては、子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、審判をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない」と定められたことに、大きな期待を寄せられているそうです。

そして、その手続を代理するため、家事審判法では第23条で、「裁判長による手続代理人の選任等」が定められ、 裁判官が、申し立てにより、または職権で、子に手続代理人が選任されること、 その手続代理人の資格が、実質的に、弁護士に限られており、 手続代理人を「子ども代理人」と呼称して期待を寄せている方には、 「子どもの心が分かるのか?」という大きな懸念もあると思います。

そこで、この、「手続代理人」について、簡単に検討してみたいと思います。

まず、「手続代理人の資格が弁護士に限られる理由」について簡単に検討しておきます。
家事事件手続法第5章は、「手続代理人及び補佐人」となっていて、 第23条で「手続代理人の資格」が定められておりますが、 民事訴訟法第3章では、第4節の「訴訟代理人及び保佐人」となっており、 第54条をご確認いただけば、 この「手続代理人」が「訴訟代理人」と、手続きの違いによって呼称が異なる同一の存在で、 特に、「子ども」代理人と考えるべきものではないことが分かります。
そして、手続代理人の資格が弁護士に限られているのも、当然という事が分かります。

また、訴訟代理人にはない「裁判所が手続き代理人を選任する場合」についてですが、 家事事件手続法第23条で、「手続行為につき行為能力の制限を受けた者が第百十八条(この法律の他の規定において準用する場合を含む。)又は第二百五十二条第一項の規定により手続行為をしようとする場合において、必要があると認めるときは、裁判長は、申立てにより、弁護士を手続代理人に選任することができる」 と定められております。

したがって、裁判官が手続代理人を選定する場合、「弁護士」以外の選択肢はないと思われます。

次に、「手続代理人が必要な場合」について検討してみます。
この、家事事件手続法第118条又は第252条1項の規定について、 ここでは、252条1項に絞って論じることにしますが、 そこで、「第十七条第一項において準用する民事訴訟法第三十一条の規定にかかわらず、法定代理人によらずに、自ら手続行為をすることができ」て、その2号「子の監護に関する処分の調停事件」においては、「子」が、「法定代理人によらずに、自ら手続行為をする事ができる」と定められております。

よって、本来は、手続代理人に限らず、家事事件手続法19条にある「特別代理人」なども、この手続においては不要という事になります。

民事訴訟法32条でも、似たようなことが定められてあり、制限行為能力者である、被保佐人や被補助人が、 保佐人や補助人の同意なく、訴訟行為ができる場合が定めれております。
(ただし、本人訴訟が可能かは不明です。民事訴訟法では第32条2項で、特別な授権を要する場合が定められていて、 第34条で、「訴訟能力を欠く場合の措置等」として、裁判所が授権を欠く場合、補正を命じなければならないとされています。)

手続代理人の選任について定めた、家事事件手続法第23条では、第118条や第252条1項など、制限行為能力者が、法定代理人によらずに手続ができる場合、本人手続ができる場合であっても、必要があれば、申し立てや裁判官の判断で手続代理人を選任できると定められているのですが、 元より、本人手続が可能な場合についての話ですので、先の民事訴訟法34条に該当する条文は見当たりませんでした。

ただし、本人手続が可能であり、「自分でやりたい」と思っていても、 法的知識の不足など、ままならぬことがあり、手続に支障が出る恐れと言うのは考えられると思います。

そのため、118条や252条1項の手続で、制限行為能力者である被保佐人や被補助人が申し立てた場合や申し立てない場合であっても、 職権で、手続代理人を選任することで、家事事件手続における手続の遅滞を防止することが、この条文の本来の目的であったと考えています。

よって、252条1項2号の「子の監護に関する処分の調停事件」では、子が、自ら手続ができると定められておりますが、やはり、法的知識の不足など、手続に支障が出る場合が考えられますので、それを補充する意味で、裁判官が、申し立てにより、又は職権で、弁護士を手続代理人、いわゆる「子ども代理人」に選任することが考えられます。

最後に、結論としては、現状、「子ども代理人」と言っても、通常の手続代理人と変わりません。
制度が施行されて間もないですが、子ども達が手続に参加する中で、手続代理人が、法実務能力と法的知識の提供以上に、子ども達に寄り添い、その利益を考えて訴えることができるかが、課題になると思われます。


2013年1月31日 著作物です。無断転用は禁止します。 さとうかずや(さとう社会問題研究所)


(参照条文)

家事事件手続法

第一編 総則
第四章 当事者能力及び手続行為能力

(当事者能力及び手続行為能力の原則等)
第十七条  当事者能力、家事事件の手続における手続上の行為(以下「手続行為」という。)をすることができる能力(以下この項において「手続行為能力」という。)、手続行為能力を欠く者の法定代理及び手続行為をするのに必要な授権については、民事訴訟法第二十八条、第二十九条、第三十一条、第三十三条並びに第三十四条第一項及び第二項の規定を準用する。

(未成年者及び成年被後見人の法定代理人)
第十八条  親権を行う者又は後見人は、第百十八条(この法律の他の規定において準用する場合を含む。)又は第二百五十二条第一項の規定により未成年者又は成年被後見人が法定代理人によらずに自ら手続行為をすることができる場合であっても、未成年者又は成年被後見人を代理して手続行為をすることができる。ただし、家事審判及び家事調停の申立ては、民法(明治二十九年法律第八十九号)その他の法令の規定により親権を行う者又は後見人が申立てをすることができる場合(人事訴訟法(平成十五年法律第百九号)第二条に規定する人事に関する訴え(離婚及び離縁の訴えを除く。)を提起することができる事項についての家事調停の申立てにあっては、同法その他の法令の規定によりその訴えを提起することができる場合を含む。)に限る。

(特別代理人)
第十九条  裁判長は、未成年者又は成年被後見人について、法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、家事事件の手続が遅滞することにより損害が生ずるおそれがあるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、特別代理人を選任することができる。
2  特別代理人の選任の裁判は、疎明に基づいてする。
3  裁判所は、いつでも特別代理人を改任することができる。
4  特別代理人が手続行為をするには、後見人と同一の授権がなければならない。
5  第一項の申立てを却下する裁判に対しては、即時抗告をすることができる。

第五章 手続代理人及び補佐人

(手続代理人の資格)
第二十二条  法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ手続代理人となることができない。ただし、家庭裁判所においては、その許可を得て、弁護士でない者を手続代理人とすることができる。
2  前項ただし書の許可は、いつでも取り消すことができる。

(裁判長による手続代理人の選任等)
第二十三条  手続行為につき行為能力の制限を受けた者が第百十八条(この法律の他の規定において準用する場合を含む。)又は第二百五十二条第一項の規定により手続行為をしようとする場合において、必要があると認めるときは、裁判長は、申立てにより、弁護士を手続代理人に選任することができる。
2  手続行為につき行為能力の制限を受けた者が前項の申立てをしない場合においても、裁判長は、弁護士を手続代理人に選任すべき旨を命じ、又は職権で弁護士を手続代理人に選任することができる。

第二編 家事審判に関する手続
  第一章 総則
第五款 家事審判の手続における子の意思の把握等

第六十五条  家庭裁判所は、親子、親権又は未成年後見に関する家事審判その他未成年者である子(未成年被後見人を含む。以下この条において同じ。)がその結果により影響を受ける家事審判の手続においては、子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、審判をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない。

第二章 家事審判事件
    第一節 成年後見に関する審判事件

(手続行為能力)
第百十八条  次に掲げる審判事件(第一号、第四号及び第六号の審判事件を本案とする保全処分についての審判事件を含む。)においては、成年被後見人となるべき者及び成年被後見人は、第十七条第一項において準用する民事訴訟法第三十一条の規定にかかわらず、法定代理人によらずに、自ら手続行為をすることができる。その者が被保佐人又は被補助人(手続行為をすることにつきその補助人の同意を得ることを要するものに限る。)であって、保佐人若しくは保佐監督人又は補助人若しくは補助監督人の同意がない場合も、同様とする。

第三編 家事調停に関する手続
   第一章 総則
    第一節 通則

(手続行為能力)
第二百五十二条  次の各号に掲げる調停事件(第一号及び第二号にあっては、財産上の給付を求めるものを除く。)において、当該各号に定める者は、第十七条第一項において準用する民事訴訟法第三十一条の規定にかかわらず、法定代理人によらずに、自ら手続行為をすることができる。その者が被保佐人又は被補助人(手続行為をすることにつきその補助人の同意を得ることを要するものに限る。)であって、保佐人若しくは保佐監督人又は補助人若しくは補助監督人の同意がない場合も、同様とする。
一  夫婦間の協力扶助に関する処分の調停事件(別表第二の一の項の事項についての調停事件をいう。) 夫及び妻
二  子の監護に関する処分の調停事件(別表第二の三の項の事項についての調停事件をいう。) 子
三  養子の離縁後に親権者となるべき者の指定の調停事件(別表第二の七の項の事項についての調停事件をいう。) 養子、その父母及び養親
四  親権者の指定又は変更の調停事件(別表第二の八の項の事項についての調停事件をいう。) 子及びその父母
五  人事訴訟法第二条に規定する人事に関する訴え(第二百七十七条第一項において単に「人事に関する訴え」という。)を提起することができる事項についての調停事件 同法第十三条第一項の規定が適用されることにより訴訟行為をすることができることとなる者
2  親権を行う者又は後見人は、第十八条の規定にかかわらず、前項第一号、第三号及び第四号に掲げる調停事件(同項第一号の調停事件にあっては、財産上の給付を求めるものを除く。)においては、当該各号に定める者に代理して第二百六十八条第一項の合意、第二百七十条第一項に規定する調停条項案の受諾及び第二百八十六条第八項の共同の申出をすることができない。離婚についての調停事件における夫及び妻の後見人並びに離縁についての調停事件における養親の後見人、養子(十五歳以上のものに限る。以下この項において同じ。)に対し親権を行う者及び養子の後見人についても、同様とする。

民事訴訟法

第一編 総則
第三章 当事者
    第一節 当事者能力及び訴訟能力

(未成年者及び成年被後見人の訴訟能力)
第三十一条  未成年者及び成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない。ただし、未成年者が独立して法律行為をすることができる場合は、この限りでない。

(被保佐人、被補助人及び法定代理人の訴訟行為の特則)
第三十二条  被保佐人、被補助人(訴訟行為をすることにつきその補助人の同意を得ることを要するものに限る。次項及び第四十条第四項において同じ。)又は後見人その他の法定代理人が相手方の提起した訴え又は上訴について訴訟行為をするには、保佐人若しくは保佐監督人、補助人若しくは補助監督人又は後見監督人の同意その他の授権を要しない。
2  被保佐人、被補助人又は後見人その他の法定代理人が次に掲げる訴訟行為をするには、特別の授権がなければならない。
一  訴えの取下げ、和解、請求の放棄若しくは認諾又は第四十八条(第五十条第三項及び第五十一条において準用する場合を含む。)の規定による脱退
二  控訴、上告又は第三百十八条第一項の申立ての取下げ
三  第三百六十条(第三百六十七条第二項及び第三百七十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定による異議の取下げ又はその取下げについての同意

(訴訟能力等を欠く場合の措置等)
第三十四条  訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠くときは、裁判所は、期間を定めて、その補正を命じなければならない。この場合において、遅滞のため損害を生ずるおそれがあるときは、裁判所は、一時訴訟行為をさせることができる。
2  訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠く者がした訴訟行為は、これらを有するに至った当事者又は法定代理人の追認により、行為の時にさかのぼってその効力を生ずる。
3  前二項の規定は、選定当事者が訴訟行為をする場合について準用する。

(特別代理人)
第三十五条  法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、未成年者又は成年被後見人に対し訴訟行為をしようとする者は、遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して、受訴裁判所の裁判長に特別代理人の選任を申し立てることができる。
2  裁判所は、いつでも特別代理人を改任することができる。
3  特別代理人が訴訟行為をするには、後見人と同一の授権がなければならない。

第四節 訴訟代理人及び補佐人

(訴訟代理人の資格)
第五十四条  法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ訴訟代理人となることができない。ただし、簡易裁判所においては、その許可を得て、弁護士でない者を訴訟代理人とすることができる。
2  前項の許可は、いつでも取り消すことができる。


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