さとう社会問題研究所コラム

さとう社会問題研究所では、東日本大震災についても高い関心を持ってコメントを続けております。
先日、陸前高田市の食糧配給が終了したと報道されていました。
被災者への義捐金の配布なども遅れていることもあり、貯蓄を取り崩して生活されている方には、死活問題となることと思います。
南相馬市や飯館村では餓死者がいたと言われており、十分な調査を得なければ、「自立という名の見殺し」になりかねません。
今回は、震災復興における構想から運営に関し、戦略的側面から述べたいと思います。

まず、震災復興は以下の3条件をクリアすることが必要になります。
それは、第一に「被災者の生活資源の確保」、第二に「被災地域への金融特別政策の実施」、第三に「原発関連対策」と定義しておきます。
これらに共通する点は「被災者の平穏な生活を取り戻す」ということです。これは、当研究所が研究の対象としていることでもあります。
今回は、震災復興の3条件のうち、第一の条件について論じたいと思います。

震災復興について考える場合、「被災者の生活資源の確保」が第一になります。
これは、災害に際し、救援活動を終え、復旧段階にあることが前提のことです。

現時点で被災者には、「精神的な苦痛」と「経済的な困難」という二つの問題が発生しております。
精神的な苦痛とは「災害による抑うつ」ということです。
ご家族や財産をなくされた方は、大きな喪失感を感じておられ、無気力になっておられることもあります。
また、被災地で自発的に活動しておられる方もおられますが、私としては避難所解散後の「燃え尽き症候群」などの懸念を感じております。
復旧についての提案を行う政治、経済、法律の専門家にありがちなことですが、物的な復旧のみしか考慮しないため、被災者を復旧の主体としての活躍を求めてしまいがちです。
しかしながら、被災者がこれらの重責を担えるか状態か否か、慎重に調査することが求められます。
厚生労働省発表の2009年のうつ病による経済損失は2兆7千億円とされているからです。
神経症状として、震災直後からASD(急性ストレス障害)、1か月ほどでPTSDと言われるようになります。
喪失による抑うつは、2か月ほどでうつと判断されるようになります。
精神的な苦しみは見た目には分からないことの方が多いと思います。今でも休養が必要な方はおられるはずです。
うつの方に「甘えるな」ということが、いかに愚かで無意味な、「言う側の自己満足」に過ぎないことであるか、当研究所では何度か発信しております。

「抑うつを抑える方法」については単純には言えませんが、「平穏な生活」を送っていただくことが最短の方法になると考えており、さとう社会問題研究所ではカウンセリング業務を行っております。

さて、平穏な生活のためにも、被災者の生活資源の確保が復興の第一条件となります。
警察庁発表の2010年の自殺者数の22%が経済・生活問題が理由となっております。
二次・三次災害を防ぐため、経済的な安心感の確保は復興のための立派な手段です。
そのため、食糧配給や金銭支給をしながら自立可能な生産手段を復旧・確保し、生産手段を生活資源とできることが必要です。
食糧配給を廃止する場合、自立可能な生活資源が確保されるまで、義捐金や賠償金など金銭支給を継続することが求められます。
もちろん、高額な支給で被災者を豊かにすることが目的ではありません。仮設住宅についても、長期滞在者に対しては家賃などを請求しても良いと思います。
2009年4月の北九州市の生活保護打ち切りによる餓死事件のように、「自立を求める」という場合、配給を止めて飢え死にさせてしまっては、「自立という名の見殺し」になってしまいます。
具体的には、企業や第一次産業の方ならば、災害前のある程度安定した生活を取り戻せるまで、失業された方ならば、別の何らかのお仕事を見つけ、ある程度安定した収入を得られるまでのことです。

復旧段階としては、インフラの回復、仮設住宅などの確保、生活資源の確立が重要になりますが、現在の状況を見てもそれが確立されているとは言い難いと思えます。
明日の食べ物を心配ている現状、被災者は今でも生活面でも重大な危機にあると考えることが必要です。
被災者が「わがまま」になっていると見える発言をテレビで見かけますが、大きな災害ののち、子供が親に甘えるようになることがあるそうです。
また、わがままを言ったり、逆に、しっかり者を演じようとする子供もいるそうです。
この反応は子供だけのものなのでしょうか?


つづく

2011年6月1日 著作物です。無断転用は禁止します。 さとうかずや(さとう社会問題研究所)


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