さとう社会問題研究所コラム

さとう社会問題研究所では、東日本大震災についても高い関心を持ってコメントを続けております。
震災から3か月が経とうとしており、前回、陸前高田市の食糧配給の終了を契機に執筆を開始した本稿ですが、政策上、震災復興のためには、第一に「被災者の生活資源の確保」、第二に「被災地域への金融特別政策の実施」、第三に「原発関連対策」と3つの条件をクリアすることが必要であることを論じております。
しかしながら、当研究所では、被災者には精神的な苦痛と経済的な混乱にあると考えられ、復興政策を通じ被災者の平穏な生活を取り戻していただくことも検討に加えております。

前回は第一の条件である「被災者の生活資源の確保」について述べました。
今回は、第二の条件として、「被災地域への金融特別政策の実施」について述べます。

震災直後から、「住宅ローン」や「事業に関するローン」についての話題が上がっておりました。最近では「二重ローン問題」と言われております。
現時点では解決策は出されておりませんが、津波で家を流された被災者が生活資源どころか帰るところもないのに、住宅ローンの支払いを続けなければならないということになっております。
もちろん、第二次補正予算において、何らかの対策が採られると思われますが、全国銀行協会は、住宅ローンや土地の買い取りを国に要求しているとのことです。

これに対し国が採るべき方針は以下に集約できます。
1、被災者の負担を軽減しなければならない。
2、銀行にすべての負担を押し付けてはならない。
3、被災者と銀行のすべての負担を国が引き受けてはならない。

1、に関しては二重ローン問題の解決が目的ですので当然のことですが、2、のように徳政令を出すこともできません。
被災者のローン総額もかなりの金額に上り、震災による被害もかなりの額に上ると思います。
また、銀行に負担を押し付けてしまっては、銀行は今後、かなり審査を厳しくする必要が出てくるでしょう。
被災者を救うつもりでも、結果的に被災者の生活再建にも大きな影響がでるかもしれません。
3、の条件は難しいのですが、「近代私法の三原則」の「所有権絶対の原則」によるものです。日本国憲法では29条が該当します。
私有財産制は、国家からの干渉を許さないのですが、これは、災害においても同じように考えられることになります。
また、国による被災者と銀行に対する負担は税金によりますので、すべての負担を引き受けることは他の地域の国民との租税負担と福利の公平性について考えなければなりません。
それは、被災者も銀行も同じように考えなければなりません。
銀行が負担なく公的支援を受けようとすることも許されないことになります。
本稿では経営戦略について論じるため、この点について憲法学上の議論は考えないことにします。

さて、上の条件に従った被災地域への金融特別政策の基本的な考え方として、さとう社会問題研究所では以下のように考えます。
1、被災地域の生活再建のため、3年分のローンの金利は銀行が負担する。
2、3年分のローンの元金は返済を国が代行する。
3、同じ種類のローンを組んで生活再建を図る場合、被災前のローンの残額と被災後のローンと比較し、高い方の金額を被災者が負担する。
4、同じ種類のローンを組まず生活再建を図る場合、5年分の返済を国が代行する。
5、被災者のローンに対する銀行の負担が経営を圧迫しないよう、政策的に配慮する。

まず、考えなければならないことは、被災地域が広範であり、その被害額も莫大になるということです。
しかし、多くの被災者にとっては、自分の生活資源が失われているため、被害の中で少額であったとしても負担できないということです。
この事態は「自己責任論」を持ち出して被災者を糾弾しても、強制執行など実力行使に訴えても、当面は改善できないことが見込まれます。
しかし、放置もできないため、誰かが負担することになります。

そのため、条件1、2、として、震災後の3年間は国と銀行が負担することを原則にすべきだと考えます。
3年というのは、第一次産業の復興と失業者の再就職のための期間及び、被災者と被災地域全体の復興期間、すなわち、いわゆる「モラトリアム」を念頭に置いております。
そして、被災者自身の復興計画の中で、再び住宅ローンを組んだり、事業を再開することもあると思います。また、被災地域を出られ、これまでと違う道を模索される方もおられると思いますので、3、と4、の条件を挙げました。
一定の形で「被災者の生活資源の確保」がなされれば、その後の再建は国と銀行と被災者の状況に応じて行うべきだと考えます。
大事なことは、早期に事業再開や再就職できたとしても、震災前と同様の責任を被災者に要求することが結果的に生活再建や復興を遅らせてしまう恐れがあるということです。

「被災地域への金融特別政策の実施」においても、重要なことは被災者に平穏な生活を送っていただくことです。
これは、さとう社会問題研究所のカウンセリング業務の中で、平穏な生活がすべての始まりだと実感しているからです。震災復興に対する戦略構想を考える場合、その運営のための戦略は「心理的な戦略」と「経済的な戦略」という2レベルで考えなければならず、これはどちらかを優先することもできないということです。
そして、「心理的な戦略」とは言いながら、国策としては経済的支援しか行うことができないということがあります。

被災地域に実施されるすべての経済的な戦略は第一に、被災者の復興への意欲に対し働きかけるものである必要があると考えます。
そのため、さとう社会問題研究所では、被災者に対する経済的な支援を通じ、「震災による抑うつ」や「震災後の生活不安」を克服していただき、可能な限り復興への主体となっていただけるよう、「心理的な戦略」を採る必要があると考えます。

(なお、震災復興の3条件の第三、「原発関連対策」については、専門外であるため、現時点では論じないことにしております。)


2011年6月7日 著作物です。無断転用は禁止します。 さとうかずや(さとう社会問題研究所)


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